コロナからのV字回復 T&S20代社長の経営への思い

今回は、Legend Walkerのスーツケースを手掛ける株式会社ティーアンドエス(T &S)社長、斉真希さんをピックアップ。6歳から21歳まで親元を離れ、海外で生活を送った斉社長。26歳という若さで社長に就任した経緯や、スーツケース開発にかける想いなど、彼女の経営理念には常に「人」というキーワードが存在します。
大手企業の勤務を経て数々の困難を乗り越えてきた彼女が人生を通じて得たものとは。コロナ禍の苦境からV字回復を果たしつつある会社を、どのように率いてきたのでしょうか。熱い想いを語って頂きました。

斉社長プロフィール

株式会社ティーアンドエス代表取締役社長。柴犬クッキーのママ。
1995年北京生まれ。埼玉県越谷市で幼少期を過ごした後、中国・アメリカで教育を受け、卒業後日本に帰国。デロイトトーマツコンサルティングで戦略コンサルタント、リクルートで事業企画を経験した後、2021年1月から現職。
2023年4月より、早稲田大学経営管理研究科夜間主総合MBA在学中。

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<斉社長の過去と今>

■6歳から親元を離れ北京で寮生活を送ったとのことですが、ご両親に対してはどのような思いがありますか?

斉:もし当時に戻ることができるなら、親と離れたくはなかったですね。ただ、そのお陰で色んな世界や人々に触れることができましたし、沢山の経験や、自ら努力して成し遂げる力を培うことができました。そういった面では両親にとても感謝しています。

■T &S創業者であるお父様はどんな方でしたか?また、どのような影響を受けましたか?

斉:教育面で何かを強制させられたりということは全くありませんでしたが、父からは人生においてチャレンジし続けることを教わりました。学業もキャリアも、常に「今でしかできない事」、「難しい方」を選ぶよう言われてきました。
大学は総合大学ではなく、外国人1%未満の難関文理学院を選び、アメリカ人ばかりの中で社会学と国際研究を履修しました。何度も挫折しそうになりましたが、留学生として初の社会学部賞を受賞し優等学位で卒業できたのも、父の教えのお陰だと思っています。
日本での就職後は、日本語ができないままコンサル会社で大手日系自動車メーカーを担当し、その後未経験だったテック業界にも転職しました。様々な困難がありましたが、これらの経験は全て自分の糧になっています。父は、うまくいくという保証がないにも関わらず24歳で渡日し、外国人として異国で起業しました。これまでの挑戦も、今の会社を継ごうと決意できたのも、そんな父の姿を見てきて、チャレンジすることこそ人生を無駄にしない生き方だと思えたからです。

■お母様からの影響はありますか?

斉:母は、自分なりの正義があることに対しては、何がなんでも成し遂げるという意志の強さと行動力を持っています。それは私にも受け継がれているかもしれませんね。私が小学生の時、寮のシャワーヘッドを使いやすいものに変えてもらうため、母は校長に直談判しました。PTA組織のようなものを作って署名を集め、結局実現させたというエピソードもあります。「現状に不満があるのなら、我慢するより変えていこう!」と、社会正義についても私生活についても、あるべき姿に向けて行動を起こし成し遂げる力を母からは教わりました。

■26歳という若さで会社を継いだ時の状況を教えてください。

斉:前社長である父が病で倒れたのとほぼ同時に、コロナ禍が始まり市場はストップ、創業以来増収増益を続けて好調だった経営状態から一気に転落し、会社は大ピンチを迎えていました。

■そんな中、会社を継ごうと思えたのはなぜでしょうか?

斉:実は、継いで欲しいとは父から一言も言われていないんです。当時私は明確なキャリアプランがあり、継ぐことを一切考えていませんでした。けれど、会社のメンバーとは幼ない頃から付き合いもありましたし、父の側でスーツケースを見ていたので、会社には愛着がありました。また、父はこの会社のために幼い私と離れて過ごすことを選んだので、会社が無くなってしまえば親と離れて過ごした自分の過去が無駄になってしまう気もして・・・。

もう一つ、私はずっと中小企業の力になりたいと思ってきたんです。前職では中小企業向けのサービス企画を担当し、中小企業が元気になることで世の中が変わっていくのがよく見えたんですね。そこで、自分が企業を経営していくという選択肢も、過去の経営コンサル経験や中小企業への理解も活かすことができ、やりがいを感じられると思いました。

■当初はかなり困難な状況だったと思いますが、どのように立て直したのでしょう?

斉:そうですね、2021年当時、会社の先が見えず離脱した社員も沢山いて、そこはとても辛かったです。父も入院中で、相談できる相手、真似できる先輩もいませんでした。そこで、私は思い切って自分らしい経営を実践することにしたのです。

最初に、社長に就任するに当たって以下2点を約束しました。

まずは、これ以上リストラはしないということ。「今残ってくれている皆さんは、全員会社の第2創業期を作っていくにあたって主力となるメンバー。これから共に困難を乗り越えていく皆さんを大切にします。」そして、社員を100パーセント信頼するということ。「社長だからといって偉いのではない。経験のある皆さんを全面的に信頼しているので、業界・商品・お客様について教えて頂きたい。」これらを確約し、社内の関係がフラットな新しい経営スタイルを打ち出しました。

次に、1人ずつ面談を行って個人の特性を把握した上、いくつかのプロジェクトチームを編成して新事業領域の展開を行ったり、レジェンドウォーカーストアの立ち上げを始めました。経営理念とブランドへの理解を深めるためには、ワークショップ形式で会社の将来を共に描いたりもしました。

これらによって会社が一丸となり、少しずつ将来に希望が見出せるようになってきたんです。今は週次で社内報を書いて、私の思想や、会社の様々な出来事を全員に共有し、同じ方向に向けるよう意識しています。

<T&Sの今と未来>

■会社がポジティブな方向に進んで良かったです。困難な時期を乗り越え、会社として、いま心掛けていることは何でしょうか?

斉:最近、私らしい会社のパーパスを定義することができました。それは、「旅を身近にすること」。海外で暮らしてきたことから、私はこれまで旅の機会にも多く恵まれ、たくさんの人に出会い、様々な体験をすることができました。そのおかげで今の自分がいて、とても有意義な時間を過ごせています。今の会社は、このような「旅する意義」をもっと多くの人に実感してもらいたいという気持ちが原動力になっているんです。

「身近さ」を英語で表すと「Accessibility」。アクセシビリティとは、人種・国籍・性別・社会的階層・障害の有無にかかわらず「あらゆる人が身近に感じられる」という意味が含まれていると思っています。そのためには、一部の人に特化した商品ではなく、誰でも、どこでも、いつでも使える旅用品とサービスの提供を心掛けることが重要だと考えています。

旅を身近に。

新たな人に出会い、新たな価値観に触れる旅の経験は人生を豊かにしてくれます。
だから、より多くの人に旅をしていただきたい。

ティーアンドエスは、クオリティ・機能性・遊び心を追究し、すべての人に満足していただけるスーツケースを提供いたします。

皆様とともに、たくさんの思い出を運べますように。

■「旅を身近に」という企業パーパスの元、現在会社はどのような変化を経験し、何を感じていますか?

斉:現在、会社はポストコロナの新たな市場ルールの元、急成長しています。その中で、個人が目指すゴールと会社の方向性を紐付けることが大事だと感じています。一人一人のキャリア形成を尊重しながら、それがどれだけ会社に貢献したかを見える化し、やりがいを感じられる環境を提供するよう心掛けています。もちろん大変なことも多々ありますが、成長・挑戦意欲があるメンバーに十分な機会を与え、何よりティーアンドエス第2創業期の楽しさを実感してもらいたいです。会社の行動指針が当社の経営理念をサマライズしています

行動指針

失敗を愛し、成長につなげよう。
責任感を持ち、真摯に対応しよう。
効率性を大切に、創造性も楽しもう。
個を伸ばし、和の力で邁進しよう。

■具体的な施策を教えてください。

斉:経営理念の落とし込みの一環として評価制度を再構築しました。

例えば、「目標設定」では個人の伸ばしたいスキルを尊重しています。以前は、同じ職種・等級の社員は事前に定義された同じ目標を目指していました。しかし、実は一人一人成長の枠は違うんです。今は、職種・等級ごとに抽象的なフレームワークの中で自分なりの目標を立て、その達成度を評価の基準としています。こうすることで自分の成長が実感でき、努力が認められます。納得感があるし、やる気が出ると社員からも好評です。

そのほかに、協調性・チームワークを形成させるため、定期的に全社に向けた情報発信を実施しています。全体会議では私が部署をまたいだ事象の報告などを行うのですが、そこで様々な部署内で行われた小さな改善や個人の努力なども取り上げて評価しています。こうすることで、見えずらい他部署の活動や努力なども知ることができ、お互いの理解や共感が得られます。他部署が頑張っているんだから自分たちも頑張ろう!などとお互いを鼓舞し合い、共感できるようになるんです。成果を出せたら、バックオフィスでサポートしてくれたメンバーを忘れずに、同じ目標に向けてお互いの立場を分かり合える環境を整えることが大事だと考えています。

■今後、会社としてはどのような人材を求めていますか?

斉:そうですね、やはり旅好きな方はもちろん、協調性がありながらチャレンジ精神旺盛な方、成長意欲が高い方に来て欲しいですね。こういった方であれば、弊社での仕事はとてもやり甲斐があると思いますし、与えられた成長の機会を十分に活かすことができると思います。

■現在V字回復しつつあるとのことですが、Legend Walkerスーツケースの強みとはなんでしょうか?

斉:1番は品質・商品づくりの追求です。
特にアフターケアには力を入れています。独自のサービスセンターを持っているので、自社で修理まで対応できるというのはやはり強いと思いますね。更に、この春から品質管理とアフターケアを同じ部門にし、商品部に統合しました。開発、検品、販売後の状態が一度に見える化されることで、開発段階から品質にこだわり、修理が多い部分=要改善として開発に活かせます。また、そのスピードが格段に速くなります。SDGsの一環で、どのモデルにも代用が効く共通パーツの開発も進めています。これにより、パーツの在庫不足でメンテナンスができないという問題を解決できます。

■品質について、純国産のスーツケースはほとんど存在しないですが、やはり「海外製」をネガティブに捉える方も多いのが現実です。その当たりはどのようにお考えでしょう?

斉:工場によって、ピンからキリまであるというのが現実です。ただし、海外製造でも「ピン」の方の技術レベルは相当高いです。また、うちで使っている中国工場は非常に高レベル。20年来の付き合いがあり、日本ではT&Sとしか付き合わないという契約の元に、信頼関係を作り上げてきました。父がこの工場を選んだ決め手は、経営者の志だったといいます。うちでは不良品が出ると工場に返品するのですが、そうなると工場の方も相当な損失になります。そんな時にも「良い勉強になった」と考えるのか、「こんなに面倒くさい日本の会社とは付き合えない」と考えるのか。うちの工場の経営者は前者だったんですね。どちらかが一方的に利益を得るのではなく、共に良いものを作り上げていこう、一緒に成長していこうという気持ちを互いに持っているからこそ、更に良いものを作れるようになり、業界を先駆ける開発も可能となりました。

■今後のLegend Walkerはどうなっていくでしょうか?

斉:ライフスタイルブランドとして、あらゆるお出かけシーンに適する提案ができるよう目指しています。 私たちは、ラグジュアリーに特化したブランドではなく、長期旅行に耐えうる高機能のものから初めての修学旅行まで、ライフイベントから普段使いに似合うライフスタイルブランドでありたいと思っています。頻繁に旅行ができない方も沢山いるでしょう。でも、人生における「旅」は必ずしも長期の旅行に限りません。帰省、お出かけ、入院、入学、出張など、普段の生活の中で少しでもスーツケースを身近に感じて手に取ることができれば、世界が広がるかもしれません。

「STORY」ではインフルエンサーや有名人ではなく、敢えて一般ユーザーのエピソードを取材しています。初めは、スーツケースの使い方や要望を聞き取る目的でもあったのですが、彼らの人生にまつわるストーリーがとても素敵で、いつしかそちらに着目するようになりました。ブランド名にある通り「Legend (伝説)を作る」というのがブランドコンセプトではあるのですが、それは私たちが作るものではなく、もうすでに皆さんがレジェンドを持っているんですよね。

スーツケースの数だけ想いや夢がある。豊かさや成功の定義もそれぞれで、必ずしも世間的な評価基準だけではないと思っています。私たちにとっては、人それぞれの目指している豊かさや夢の実現に寄り添うのがミッションであり、スーツケースがそのためのパートナーとなれれば良いなと思っているのです。

<おわりに>

両親、社員、工場スタッフ、そして顧客と、常に人との繋がりを大切にしてきた斉社長。コロナ禍の難関を乗り越え、それを成功に変えてきた背景には、やはり「人」というキーワードは欠かせなかったのではないでしょうか。 無機質に見えるスーツケースも実は人との繋がりの中にあり、作り手、そして持ち主の想いや夢が目一杯詰まったものなのです。Legend Walkerのスーツケースは、これからも様々な人が紡ぐ人生のパートナーとして、存分に活躍してくれることでしょう。

インタビュー・ライター:藤井 麻未

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